TALKIN’!トーきん! 〜きんちゃんとあのひとのおしゃべり〜 ゲスト:BLUE BOTTLE COFFEE 代表 伊藤諒さん 2
対談
TALKIN’!トーきん! 〜きんちゃんとあのひとのおしゃべり〜
ゲスト:BLUE BOTTLE COFFEE 代表 伊藤諒さん

左:きんちゃん 右:伊藤さん
トーキョーバイクの代表であるきんちゃんが、気になる人とお話ししてみるという対談企画。今回は、同じ清澄白河に旗艦店があるBLUE BOTTLE COFFEE 代表 伊藤諒さんとの楽しいおしゃべりの中編です。(2022年10月現在)
「なぜ清澄白河を選んだのか 編」はこちら
「これからどんな場所にどんなお店を出したいか 編」はこちら
お店を構える場所を探すときは直感を大事にしているとお話されていましたけど、例えば清澄白河以外でも、出店する街を選ぶときに重視していることってありますか?
伊藤さん
そうですね…ふわっとしてて申し訳ないんですけど(笑)。ふつう飲食業だと、そこの交通量が何%で、客単価いくらだから売り上げがどのくらい、みたいな基準で決めるんだと思うんです。でも僕らはそれを一切スタートとして考えないんですよ。
ロンドンには「ペニーユニバーシティー」っていう言葉があるんですけど、ワンペニーでコーヒーが買えるカフェに、いろんなバックグラウンドの人が集まるから、大学に行ってるみたいにいろんなことが学べるっていう意味があって。
僕らがイメージするコーヒーショップも、やっぱりそんな風に地域の人が集まって、出会いがある場なんです。
だからその街に入ることで、コミュニティの人たちが集うきっかけになるような、僕らが何かその地域の人たちに貢献できるような場所にしたい。そう思える場所を探してるっていうのが、根底にありますね。

ブルーボトルコーヒー 京都六角カフェ
伊藤さん
たとえば京都のカフェ(ブルーボトルコーヒー 京都六角カフェ)は、『辻森自転車商会』という街の自転車屋さんの、建物の中にあるんですけど。
昔から街に愛されている自転車屋さんの一角で、そこにあるコミュニティに対して僕らは何ができるだろう、みたいなことを考えながらやらせてもらっています。
きんちゃん
辻森自転車さんは、うちも昔から親しくて、最初に店に行った時にすごいインパクトを受けた。かっこいいよね、もう何十年ぶらさげてんだろうなっていう年季の入った(店舗壁面に飾られた)自転車が。建物も、古い木造の日本家屋でね。
でも何がいいって、そこのお店をやってる店主の…
伊藤さん
大輔さん
きんちゃん
そう、大輔さん。彼はとにかく、街の人とたくさん話していてね。いつも外で自転車修理してるから、通る人通る人、ほんとにもうみんなから声かけられて。
伊藤さん
街の人がパンクしちゃった、って来たら『いいよいいよ、パンクぐらいならすぐ直すよ』みたいな。本当にすごいいい感じで、コミュニティの人と繋がってるんですよね。そうやって自転車修理に来た人が、コーヒー飲みながら待っててくれたりして。
きんちゃん
そういう意味では、もちろんお店のある場所も大事だけど、そこで働く人たちがやっぱり一番大事だなって思っていて。
せっかく店を出しても、中で働くスタッフがとりあえず仕事をこなせばいいって感じだと、お店がその場所にある醍醐味がちゃんと伝わらない。そこで働く人たちが、その街にどれだけ根付けるかが大事ってことなんだよね。
伊藤さん
その店に行くっていうよりかは、その店のその人に会いに行く、みたいになると、やっぱりそこはすごくいい場所になってきますね。
きんちゃん
お店に行く側って、初めて行く店だと特に、結構ドキドキしながら行くものじゃないですか。だからどれだけアットホームな気持ちにお客さんになってもらえるかが大事ですし。コーヒー屋さんって本当に日常の店だから、なおさらね。
伊藤さん
そうですね。うちの店は、日本上陸当初はちょっと敷居が高いイメージがあったので、そこをどう打開していくかはずっと考えてました。
行ってみたら意外と(バリスタが)フレンドリーだった、みたいな声をいただくこともあって。そこのバリアを少しずつ崩していきたいなと思ってますね。

きんちゃん
今、ブルーボトルは海外にはどのぐらいあるんですか?
伊藤さん
結構増えていて、アメリカ以外は韓国、香港、あと上海ですね。韓国と香港の立ち上げは、僕も関わっていたんですけど…韓国とか本当に知らないところだったから、ソウルに2週間、この出口が見えない出張、どうしようって思ってました(笑)とにかくソウルを歩き倒して街を知るっていう。
きんちゃん
え、店の場所も決まってなかったの?
伊藤さん
場所も決まってないし、探すところからのスタートでした。若い人たちがどこで何話してるのかを観察しながら、レンタルバイクと徒歩とバスだけで移動して。ここは昔はイケてたけどもうちょっと過ぎたな、とか、ここは次きそうだな、とか思いながらいろいろ見て。一方でブルーボトルとして大切にしてることってこういうことだよな、じゃあ1号店のカフェはここで出そう、と。大変だったけど楽しかったですね。


きんちゃん
そういう、ガイドブックには載ってない街の雰囲気って大事だよね。それって、まあ、あの自転車屋だから自転車のことを言うわけじゃないけど(笑)、ほんとに自転車で回ると一番よくわかるんですよ。
伊藤さん
めちゃめちゃわかります。うちの当時のCEOブライアンは、一時期、日本に来る時は必ず自転車付きのAirbnbに泊まって、それで東京を回ってました。だからたまに『え、こんな道なんで知ってるの?』っていう、日本人40年やってても知らないような道を彼らが知ってることがあって(笑)。
京都も大阪も神戸も、自転車と徒歩で見て回って、人の流れを見たりとか、街の雰囲気を見ていくっていうのが、多分ずっと変わらない。うん、そこは大事にしたいですね。
きんちゃんも、海外のパートナーさんとお店を出す場所を決める時とか、自転車持っていきますよね。
きんちゃん
始めの頃は、やっぱり持ってかないとわからないなと思ってね。最初に海外でやる話が出た時は、 ヨーロッパに1回も行ったことなくて。でも、フランス人の友達に『これ、パリでもいけるよ』って言われて、じゃあ自転車もって行ってみようと。
いざ来てみたら、当時はレンタサイクルはあったけど、街中を自転車で移動してる人があんまりいなかったんですよね。
伊藤さん
そうなんですか?
きんちゃん
だって、その頃は東京だって今より自転車文化がなかったから。交通機関が発達してたのもあって、 1つ隣の駅ぐらいは行っても、2つ先の駅ってもう自転車で行く距離じゃないよねって、みんなが無意識に思ってた。
今でこそ自転車用の車道がちゃんと整備されてるけど、それもなかったから、道路の溝のとこギリギリ走ってて、あれが危なくてね(笑)。で、向こうで走ってみたら、ほんとに身軽で楽しかったの。どこでも行けるし。
もしも自転車が既にいっぱい走ってたらやりたいとは思わなかったんだけど、逆になかったから、これはいけるんじゃないかって。

伊藤さん
なんだか話を聞いてて、きんちゃんが『ここでやろう』ってどう決めるのか、すごく興味が湧きました。いいなと思う街って、どんな街ですか?
きんちゃん
やっぱり文化がちゃんとありそうなところ。あと、自転車で走るイメージがあるところかな。意外と行ってみて『あ、違うな』と思うことも結構多くて。
これはトーキョーバイクならではだなと思うんだけど、僕らにとっては「街のコンテンツ」がすごく大切で。
ただ走るための自転車っていうより、その道具を使う人が、その街にどれだけ興味をもてるかで、トーキョーバイクが生きてくるかも変わってくるですよね。
だからやっぱりその街に行って、自分や自分のお客さんになる人が、好奇心をくすぐられるような街なのかどうかっていうのが大きいです。繁華街すぎても、全然ダメだし。
伊藤さん
そう考えると、なんとなくアメリカよりヨーロッパの方がイメージが湧きますね。ちっちゃいお店がたくさんあって、それを自転車で巡りながら見るっていうのが。街がちょっとギュッとしていて。
きんちゃん
あと、お店の人の顔がよく見えてね。別におしゃれな街じゃなくたってよくて、昔からのお惣菜屋さんだったりとか、そういう行って楽しいところがいいし。通いたいお店が点在してて、そこを自由に動けるっていうことが大切かな。
伊藤さん
確かにブルーボトルも、街の常連さんが多い店舗は自転車率が高いです。清澄白河とか、中目黒とか三軒茶屋とか。自転車でくる人がすごく多いですね。
トーキョーバイクには「街を楽しむ」っていうテーマがあるんですけど、それが自転車にはやっぱりすごくマッチするなと思っていて。面白いものに出会えるちょうどいい速度感と、行動範囲。自転車はそれにぴったりのツールだなと思っています。
きんちゃん
うちがキーワードにしてるのが「旅人は、住む人のように住む人は旅人のように」っていうことでね。
旅した時にでも、やっぱりその街に住んでる人と同じことしたいし、 逆にその街に住んでる人は、自転車に乗って動き出した瞬間からもう旅になってるっていうか。今まで気づかなかったもの、ずっといたのに知らなかった新しいことを見つけられたりもするから。
伊藤さん
いや、今ちょっと鳥肌立った!ほんとにそうですよね。どこかを旅した時に、ガイドブックに乗ってるところへ行くより、ふらっとお店に入って『ちょっと初めて来たんだけど、何がおすすめなんですか』とか聞きながら、いや、あそこの店美味いって、地元の人が教えてくれる所に行く方が面白いですもんね。
(つづく)